音楽家の為の運動療法( kinesitherapie pour les musiciens )に関するインタビュー

音楽家の為の運動療法( kinesitherapie pour les musiciens )は、日本では殆ど知られていない分野です。私自身も、昨年夏までは、存在は知っていたものの、内容は全く知りませんでした。
昨年夏、私は実際にマルク・パピヨン(Marc Papillon)さんの指導を受け、また、他の方への指導を見学させていただきましたが、その内容は大変興味深いものでした。フランスで行われている音楽家の為の運動療法( kinesitherapie pour les musiciens )について、もう少し知りたいと思いまして、パピヨンさんにメールでインタビューをさせていただきました。
 届いたお返事は、とても難しいものでしたので、翻訳は黒木梨沙さんにお願いしました。
(2009年1月19日  野瀬百合子)

Question 1,

日本では、音楽家の為の運動療法( kinesitherapie pour les musiciens )は殆ど知られていませんが、フランスでは良く知られているのですか?

はい。音楽家のための運動療法は、プロの音楽家に認知されている全く新しい分野です。音楽家特有の症状に対しての特別な治療の必要性が徐々に明らかになりましたが、それには、高い見識と専門知識を要します。

Question 2,

どのような症状が、音楽家の為の運動療法( kinesitherapie pour les musiciens )の治療対象なのでしょうか?

酷使・過労(overuse)、血管及び神経の圧縮、フォーカル・ジストニア( Dystonies de fonction )が、治療の対象となります。

音楽家の病理学は、次のように分類されています。
1.酷使・過労(overuse)
腱鞘炎、筋肉の拘縮、TMSなど、軽度なものから重症なものまで痛みによってあらわれます。
拮抗筋(伸・屈筋)に関連し、上腕に見られることもあるので、場所は不特定です。

2.血管及び神経の圧縮
  演奏時にときおり、だるさ・しびれを感じます。

3.フォーカル・ジストニア Dystonies de fonction
 上肢の筋緊張異常。局部的、とりわけ手に現れることが多いですが、管楽器奏者の場合、口腔・咽頭の筋肉に症状が出ることも
あります。

Question 3,

フォーカル・ジストニアについて、説明していただけますか? 

フォーカル・ジストニアとは、演奏時のみに現れる(痛みを伴わない)伝達障害です。指が動かなくなったり、動いてはいけない指が動いてしまったり、ある特定のテクニックに困難をきたしたりします。
当初、神経科医たちが音楽家の症例に関心を抱きましたが、その後、1991年“”手の外科医(chirurgien de la main)”のチュビアナ(TUBIANA)教授、そして音楽家のリハビリを専門とする運動療法士シャマーニュ(CHAMAGNE)氏によって、重症度が5段階に区分されました。

1840年 すでに、<ピアニストの親指が演奏時に意志に反して折れ曲がってしまう>という症例が挙げられる。
1860年 英国にて、音楽家特有の病理学を「書痙( crampe de l’ecrivain )」と類推して、「音楽家クランプ( crampe des musiciens )」と発表。
1861年 フランス人臨床神経学の権威、ギヨーム・デュシェンヌ(Guillaume Duchenne )によって「機能痙攣( spasmes fonctionnels )」と形容され、筋肉への電気刺激による治療法の研究が行われる。デュシェンヌは、進行性の筋萎縮・筋力低下をきたす疾患の分析に生涯をささげ、筋ジストロフィーの発見者とされている。
1944年 スイス人の神経科医アンドレ・トーマス(Andre Thomas)が≪フォーカル・ジストニア( dystonie de fonction)≫という専門用語を初めて用いる。
1981年 <国際・手の外科学会>において、フィリップ・シャマーニュ(Philippe Chamagne)により音楽家の病理学の報告書を初発表。
1988年 問題の大きさを推定する初の疫学的研究が行われ、実に76%の音楽家が治療を要する職業性疾患を持っていることが
わかる。
2001年 フィリップ・シャマーニュ(Philippe Chamagne)、ファブリス・ジュリアン(Fabrice Julien)、イザベル・カンピオン(Isabelle Campion)そして私で、音楽家専門のリハビリセンターのチームを結成。
Parisに唯一の音楽家クリニック la Clinique du Musicien et de la Performance Musicaleを創設。
*la Clinique du Musicien et de la Performance Musical のサイト(フランス語)は、こちらです。
www.cliniquedumusicien.com

Question 4,
沢山の音楽家が貴方の指導を受けていますか? 貴方の患者さんは年々増えていますか?

はい。毎年、口コミ・講習会・講演会そして出版物を通して、私の仕事がより良く知られるようになりました。
≪ 器楽演奏での(普段の日常生活とは違う)特殊な腕の使い方が、音楽家の独特な姿勢や職業性疾患の原因となります。
それらを扱うためには、メカニズムをきちんと理解していなければなりません。 生理学の正しい知識だけでなく、楽器の知識をも持って細心綿密に対応することが必要です。感覚機能と運動機能について意識しながら、力のバランスがとれた動作を身につけ、そして、感情を解放して、真の身体を作っていかなければなりません。≫とP.シャマーニュ氏は述べています。

Question 5,

フランスには、音楽家専門の運動療法士は沢山おられるのですか?

私たちは毎年、芸術医師団(Medecine des arts)・運動療法士(マッサージ師)・一般&専門医を通じて、学際的なアプローチをしています。音楽家からの要望が大きくなるのに比例して、運動療法士の数も増えています。

Question 6,

何故、貴方は音楽家専門の運動療法士への道を選ばれたのですか?

身体&感情表現に大変興味を抱き、運動、音楽、流動性に注目するようになりました。そして、理学療法に似た運動セラピーや、運動療法・マッサージに於いての運動分析を勉強しました。 
*パピヨン氏経歴はこちらです。

(翻訳:黒木梨沙)